ちゃおちゃお的美術講座


「天使さん」
 天使・・・なんて素敵な響きでしょう。恋人に「君は僕の神だ」と言ったら病人扱いされるけれど、「君は僕の天使だ」と言うとちょっとさまになるという事実が、天使に対するイメージを的確にあらわしていると思います。
 ルネサンス絵画の中で天使は神の優しさ、慈悲、そして力の象徴として扱われています。でも天使って一体なんでしょう。
 聖書に出てくる天使も人間や動物などと同じく神の被創造物です。神が自分を手伝わせるために作ったらしいのです。つまり最も神に近い存在なのです。なら、「万物の霊長」なんて人間じゃなくて天使じゃないのと思うのですが、残念ながら答はありません。聖書には人間に関してわざわざ「神の姿をかたどって作られた」と記されています。ということは、天使の方は似ても似つかぬ姿をしているのではないかとも思えるのですが、これも答はありません。
 そもそも天使の風貌について聖書には何の記述もありません。羽根があるなんていう記述も実はまったくありません。きっと空を飛ぶのだから羽根が必要だろうという人間の想像の産物なのです。
 ペルシア、ギリシア、ローマなどの異教の神々の影響を受けてそうなったという説もあります。
 たしかに、ディズニーアニメなんかによく出てくる背中に羽根のはえたキューピッドのような天使、あれはどう見てもギリシア神話起源のように思えますよね。
 ここらへんの話は、キリスト教が他の宗教を取り込みながら様々な国の民に浸透して行く過程と深く結びついているようです。民衆には一種の天使信仰のようなものもあり、キリスト教の「多神教的」な側面を垣間見ることができます。
 
 さて、天使の世界です。ちゃおちゃおは「神になるのは御免だけど天使にならなってもいい」とずっと思ってました。気楽そうじゃないですか。
 ところが調べてみると、そうでもないらしいのです。キリスト教の教義によると、天使の世界にも厳しい階級があるのです。その数は九つ。
 上から熾天使(セラフィム、伊serafini)、智天使(ケルビム、伊cherubini)、座天使(トロゥンズ、伊troni)。この三つが上級三隊と呼ばれます。セラフィムとは神に近い純粋思考なのだそうです。絵としては全身が羽根に覆われた天使として描かれることもあります。ケルビムは神の知恵をあらわすもので四つの頭と四つの翼をもつ怪物です。トロゥンズは神の玉座だそうです。なんなんでしょう、こいつらは。まともな天使はここにはいません。
 次に主天使(ドミニオンズ、伊dominazioni)、力天使(ヴァーチューズ、伊virtu')、能天使(パワーズ、伊potesta')。これが中級三隊。天国の行政や警備などをつかさどっています。お役人とか兵隊関係ですね。
 そしてやっと我々になじみのあるエンジェルの面々が登場します。権天使(プリンシパリティーズ、伊principati)、大天使(アークエンジェル、伊arcangelo)、天使(エンジェル、伊angelo)。これが下級三隊。これらが人間を守ったり、神のお告げを知らせたりする最も人気の高い天使たちです。受胎告知の「大天使ガブリエル」もこのクラス。

 大天使はミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルの4人です。このうち絵画的によく登場する天使は大天使ミカエル、大天使ガブリエルです。ミカエルは天界の守護天使で、きわめて強力な天使です。龍退治をしている天使の絵があれば、まずミカエルだと思って間違いないでしょう。この天使は何故か日本の守護天使(伊angelo custode)でもあります。ご苦労様。
 ガブリエルは言うまでもなく受胎告知の天使です。旧約聖書にも登場し、イスラム教においてもムハンマドにコーランを伝えた天使として敬われています。このように神の言葉を伝える者と考えられています。 

 大天使なんていうからどんなに偉いのかと思ったら、けっこう下っ端なんですねえ。天国も厳しい!定年もないからきっと出世もないんだろうなあ。ガブリエルが権天使になったなんて話も聞かないし。
 これじゃあ「もういや!こんな生活」と堕天使になりたくなるかもしれません。実際多くの天使が堕天して悪魔に身を投じているのですから。

 

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