ちゃおちゃお的美術講座


「悪魔くん」
 悪魔・・・これほどポピュラーな悪役は人類史上他に存在しません。彼はどこから来たのでしょう。
 聖書には悪魔の起源は書いてありません。例によって後から伝説が付け加えられて、それが悪魔に関する通説になってます。
 それによると天地創造の頃、天の国で一つの騒ぎがありました。それは天使の反乱。ルシファーと呼ばれた最も高貴な天使が神に反乱を企て、天の国を追われたというのです。多くの天使が彼と共に地に落され、堕天します。彼らは地中潜み、復讐の機会をうかがいます。
 チャンスは意外と早くやってきました。ルシファーは蛇に化け、イブを誘惑し禁断の実をたべるように仕向けることにまんまと成功。これによって人間は神のもとから追われることになってしまいました。
 これにより人間と悪魔の対立の構図も決定的になります。とは言うものの悪魔は知恵者。単純なゴジラのように人間を殺してまわったりはしません。
 彼がとった作戦は”誘惑”。誘惑により一人でも多くの人間を神のもとから引き離し、地獄へ連れて行くのが彼のやり方です。彼は聖人、学者、はては神様まで誘惑しようとするのです。
 新約聖書でも悪魔は”誘惑者”とし荒野で断食修行するイエスの前に現れます。まず彼は餓えるイエスに「神の子ならば足元の石をパンに変えてみよ」といいます。それに対してイエスは「人はパンのみにて生きるのではない。神の言葉で生きるのである」と答えます。
 次に悪魔はイエスをエルサレムの神殿の上に連れてゆき、「神の子なら飛び降りてみよ。天使が助けてくれるぞ」と挑発します。イエスは「あなたは神を試してはならない」と言いました。
 最後に悪魔は高い山の上で、「自分を拝めば、下に見える国々をおまえにやろう」と誘惑します。イエスは「聖書にただ神のみを拝めと書いてある」と切り返し、悪魔はついに敗れ去ってイエスの前から立ち去ります。このモチーフも好んで絵に描かれました。イエスと悪魔が高い山の上に立っている構図が多いです。
 これがイエスと悪魔の直接対決でした。静かなものです。イエスはこの後「悪霊つき」などを治療しますが、悪魔とは直接接触することはありませんでした。

 一面、悪魔は神に対する挑戦者でもあります。確かに彼は神に逆らい人間を誘惑する者かもしれませんが、旧約聖書を読む限り、自分の言うことを聞かない人々に扼災をもたらしているのはむしろ神様の方なのです。
 「黙示録」でも悪魔より神様の方がはるかにたくさんの人間を殺します。これで神様が正義でなかったら、人間も救われませんよね。 
 神と悪魔の力関係って、結局”天国”を握っている方の勝ちっていうところでしょうか。

 ところで悪魔と魔神を混同している方もいるかもしれません。実はキリスト教では「魔神」は存在しないのです。キリスト教においては 悪魔はあくまでも(おやじギャグじゃないです)神の被創造物であり、それが神に逆らった存在であり、「魔神」というような神と対等の悪の存在であってはならないのです。ですから魔神は異教徒用の怪物です。 
 戦国時代の大魔神をフランシスコ・ザビエルが見ていたら、どう思ったでしょうね。

 

「ちゃおちゃお的美術講座」インデックス