ちゃおちゃお的美術講座


「キリストの地獄めぐり」
 この話は聖書の外典に載っている一種の伝説です。
 
 キリスト十字架に架けられて絶命した後、3日後に復活します。その間にちょっと一働きします。
 彼は死ぬとまず地獄に向かって降りて行きます。
地獄にはアダムとイブをはじめとする旧約聖書の「義人」たちが大勢閉じ込められていました。
 何故?彼らはキリスト登場以前の人間です。洗礼を受けていない彼らは天国に行けないでいたのです。(なんかヘンな話)そこでキリストはまず彼らを救済に行ったのでした。
 これが「キリストの地獄めぐり」とか「救世主の冥府への降下」とか呼ばれるモチーフです。
 
 絵の中でキリストは勝利の旗を持ち、地獄の門を荒荒しく蹴破ります。この勝利の旗というのは、デンマークやフィンランドの旗と同じデザインです。(色は違いますが) キリストに蹴破られた扉の下には悪魔が下敷きになっています。キリストは地獄に入るとまずアダムに手を差し出し、天へと引き上げます。

 なぜこんな話が生まれたのでしょうか?ちゃおちゃおの勝手な想像ですが、キリスト教がユダヤ教から分離した時に、旧約聖書と新約聖書の整合をとる、すなわち話のつじつまを合わせる必要があちこちで出てきたからではないのでしょうか。

 キリスト教では天国に行けるのは洗礼を受けた信者だけです。「でもアダムやイザヤはどうなるの?」という素朴な質問が信者達の間にあったのでしょう。だからキリストに地獄に行ってもらって、その人達は全て救済するという話ができあがったのでしょう。こんな風にキリスト教はユダヤ教にちょっとづつ「借りを返しながら」独立して行くのです。

 それにしても「地獄めぐり」のキリストはおそろしく力強く、さっきまで十字架で死んでいた同じ人物とはとても思えません。

 

「ちゃおちゃお的美術講座」インデックス