ちゃおちゃお的美術講座


受胎告知
 静かな昼下がり、庭先で読書に熱中していると、何やら羽音が近づいて来た。ふと目を上げるとそこには大天使ガブリエルがひざまずいる。そしてやおら、

「おめでとう! あなたは身ごもって神の子を産むでしょう!」

こんなことがちゃおちゃおの身に起こったら、ぶっ倒れて気絶ものですが、さすがはマリア様。気絶もせずしっかりと答えます。「すべては神の御心のままに。」

 これが多くの絵画の主題にもなっている新約聖書の「受胎告知」の場面です。中世の絵画では、マリアと天使が突っ立っているだけの絵でしたが、ルネサンス期に入るとマリア様にも人間的な感情を込めて描かれるようになります。その感情とはやはり「驚き」と「困惑」でしょう。そりゃこう言う状況は普通、いきなり大喜びできませんよね。

 ウフィッツィ美術館にあるボッティチェッリの「受胎告知」などでは、マリアがその身を大きくのけぞらせています。それは大きな驚きを表すとともに、そのような過酷な運命を受け入れるのをためらい、拒否しているかのようにも見えます。

 それと逆のイメージはサンマルコ美術館のフラアンジェリコの「受胎告知」です。マリアは静かに手を組み、恭順の姿勢をとっています。迷いなど無く、頭をしっかり上げ天使を見ています。お告げに前向きにさえ見えます。これは、描いたフラ・アンジェリコがやはり僧侶だからなのだと思います。

 ウフィッツィ美術館のレオナルドダヴィンチの「受胎告知」はまた別の意味で面白い絵だと思います。この絵は天使がマリアの前に飛び降りてきた瞬間を描いています。マリアは読みかけの本から顔をあげ、片手を軽くあげて驚きのポーズを取り、天使の羽根はたった今まで羽ばたいていたかのようです。

 この他にもいろいろな表現の「受胎告知」あります。自分なりに解釈しながら見るのも面白いでしょう。

 ちゃおちゃお的には、身に覚えのないことで腹がふくれるのは、勘弁です。

 さてここからは余談です。マリアはやがて妊娠します。ところが、彼女にはヨセフという人間の婚約者がちゃんといました。
 婚約者が勝手に妊娠してしまったのですから、ヨセフには当然それをとがめる権利があるのですが、彼は静かに別れようと心を決めます。
 そこにまたまた大天使ガブリエルが登場。大天使は彼に事情を説明し、マリアとの結婚を促すのです。ヨセフは心中複雑だったでしょうね。きっと。

 「受胎告知」の方はたくさんの絵になっていますが、ヨセフへの告知の方は全然人気がありません。そうでしょうねえ。

 

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